研究概要 |
本研究は,発話と身振りの個人内及び個人間における協調を可能にする機構を生態力学と心理言語学の観点から明らかにすること,特に発声の下位系である呼吸運動に着目して,発話と身振りの協調を生態力学的に制約する情報を特定することを課題としている. 前年度までに、母音の発声と手首の伸展・屈曲運動を同期させる協調実験を、個人内協調と個人間協調に関してそれぞれ実施した。その結果、発話と身振りの協調では,それが個人内協調であるか,個人間協調であるかに関わらず,協調系がF4(約1.2Hz)付近において質的に転換すること,またF4からF10にかけて,どちらのモードにおいても酷似した協調状態へ向かうことが明らかにされた.今年度は、このような構音と身体運動との間のこのようなダイナミクスに、呼吸運動がどのように関わっているかを検討した。その結果、試行が進むに連れて、呼吸運動は、質的に異なるいくつかのパターンを示すこと、また、パターンの主要な転換点が、1.2Hzをピークに正規分布していることが明らかとなった。これらの分析から、発声と手首運動とのあいだの協調ダイナミクスの質的な転換と、呼吸運動のパターンの質的な転換とが密接に関わっていることが推察される。 今後は、このような協調ダイナミクスに、これまでの研究で使われた実験系に、言語的な意味を導入し、言語的意味を含む語や表現の構音と身振り運動の同期課題を与えた場合に、ダイナミクスにどのような変化が起こるかを観察し、そのことで、言語的意味と発声-身振りダイナミクスをさらに明らかにしていく予定である。今後さらに研究を進め,コミュニケーションにおける身体協調を成立させている情報と機構に迫っていく所存である.
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