研究課題
本研究は、発話と身振りというマルチモーダルな身体運動の個人内及び個人間で成立する協調を生態心理学と心理言語学の観点から明らかにし、特に発話・身振り双方の下位系である呼吸運動との協調に着目して、発話と身振りの協調を生態力学的・心理言語学的に制約する情報を特定することを目的として行われた。今年度は以下の2つの研究を行った。(1)昨年度までに、母音の発声と手首の伸展・屈曲運動を同期させる協調実験を、個人内協調と個人間協調に関してそれぞれ実施した。その結果、発声と手首運動とのあいだの協調ダイナミクスの質的な転換と、呼吸運動のパターンの質的な転換とが密接に関わっていることを示した。これを踏まえて、今年度は、手首運動と呼吸運動の協調に関して、再帰定量分析(RQA)という手法を用いて直接評価した。その結果、個人内、個人間協調とも、協調モードの違いによって、カップリングの強さに違いがあることなどが明らかになりつつある。(2)「まく(巻く)」を連続して何度も発声すると、ある時点で「くま(熊)」に意味が反転したように感じられる、いわゆる意味反転という現象がある。この反転現象が課題開始から生起するまでにかかる時間は、意味的に関連する身振り(例では巻く動作)を共起させることで、遅延されることが知られている。本実験では、これが身振りのイメージによるものか、またはダイナミカルな情報によるものかを吟味することを目的として実験を実施したが、先行研究の結果とは異なり、身振り動作の種類が意味反転のタイミングには影響せず、動作の周波数のみが影響するという結果が得られた。この結果が示唆するところについては現在考察を進めているところである。この他、自然会話そのものに関する研究についても一定の成果が得られた。これらの成果の一部はすでに公表済みであるが、現在、公表していないものにっいて論文執筆作業を進めているところである。
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人工知能学会誌 20,3
ページ: 247-258
The 13th International Conference on Perception and Action (Studies in Perception and Action VIII,(H.Heft, K.L.Marsh(Eds.))(Lawrence Erlbaum Associates, Inc. : New Jersey.)
ページ: 45-48