本研究は、CagAによる細胞内シグナル伝達系の脱制御が宿主細胞の増殖や運動能調節にどのような影響を及ぼすのか検討し、cagA陽性H.pylori感染が細胞内シグナル制御機構を破綻させる分子機構を明らかにすることを目的とした。 1.CagAが生物活性を示す上で重要な要因であるCagAの膜移行活性に関わるCagAの分子内領域を検討した。その結果、CagAはチロシンリン酸化部位を含むGlu-Pro-Ile-Tyr-Ala(EPIYA)配列依存的に膜へ移行し、その際、リン酸化耐性型CagAもまた細胞膜への局在を示すことから、CagA膜移行活性はEPIYA配列のリン酸化非依存的な機能であることを明らかにした。 2.CagAにより活性化されたSHP-2はFAKを基質分子として直接認識し、FAKの活性化に必要とされるリン酸化チロシンを脱リン酸化することを見出した。FAK分子の脱リン酸化の亢進は細胞内FAK活性の低下を引き起こし、その結果CagA依存的な細胞形態変化が誘導されていることが明らかとなった。 3.DNAチップ解析の結果により、CagAはPLCg/カルシニューリン経路を介してNFATの核内移行を促進し、NFAT依存的な転写を活性化することを明らかにした。CagA依存的なNFAT活性化はH.pylori毒素VacAの生物活性により抑制され、NFAT核内移行に関する両分子活性は拮抗することが明らかとなった。 4.臨床検体から単離されたH.pylori由来CagA分子多型に基づいた一連の人工改変分子間の細胞内標的分子との複合体形成能を比較検討し、EPIYAサイトの数および組み合わせに依存して、細胞内シグナル伝達系の脱制御に関わるCagA生物活性が変動することを明らかにした。
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