研究概要 |
【目的】ヒト免疫不全ウイルス1型(human immunodeficiency virus, HIV-1)、同2型(HIV-2)、およびサル免疫不全ウイルス(simian immunodeficiency virus, SIV)の感染においては、7回膜貫通型G蛋白質共役受容体(G protein-coupled receptor, GPCR)に属するケモカイン・レセプター(CKR)であるCCR5とCXCR4が中心的な役割を果たすとされる。それ以外にも多数のコレセプター活性を持つGPCRが同定されている。しかし、それらの臨床的な意義については明らかではない。コレセプターとして機能するGPCRに共通する特徴として、アミノ末端細胞外領域(NTR)のアスパラギンあるいはアスパラギン酸残基に隣接したチロシン残基の存在がある。これらのチロシン残基の硫酸化がコレセプター活性に重要とされる。本研究では、この特徴を持つGPCRであるフォルミルペプチド・レセプターFML1ついて、HIV/SIVのコレセプター活性とその特徴を解析した。 【方法】FML1の蛋白質コード領域を発現ベクターpCX-bsrにクローニングした。PCR法を用いてFML1のNTRのチロシンとN型糖鎖結合配列をアラニンに置換した変異体を作製した。それらをヒトglioma由来でHIV-1非感受性のCD4発現NP-2/CD4/細胞株に導入してHIV/SIVの感染感受性を解析した。 【結果】FML1遺伝子を導入したNP-2/CD4細胞は、数種類のR5-X4指向性HIV-1実験室株とHIV-2株、およびSIV株に感受性を示したことから、FML1はHIV/SIVのコレセプターとして機能することが明らかになった。また、多くのHIV-1臨床分離株にも感受性を示したことから、FML1の生体内でのHIV-1感染への関与も示唆された。FML1のNTRの3つのチロシン残基をアラニンに順次置換した変異体を用いた実験から、N末端から第2番目のチロシンがコレセプター活性に必須であることがわかった。また、チロシンの硫酸化の阻害とN型糖鎖結合配列の欠失は、FML1のコレセプター活性には影響を与えなかった。 【考察】CCR5やGPR1と同じように、FML1のコレセプター活性においてもNTRの特定のチロシンが必須であったことから、何らかの特異的構造の関与が示唆される。FML1は典型的なCKRではなく、またCKR以外のコレセプター活性を持つGPCRが複数知られることから、その構造はCKRに限局したものではないと思われる。従って、HIV-1のコレセプターの探索はGPCR全体を対象とする必要がある。次年度は、FML1をコレセプターとするHIV-1感染の臨床的意義の解明を目指す。
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