研究概要 |
HIV感染症では、その複製抑制に中心的役割を担う細胞傷害性Tリンパ球(CTL)が誘導されるにもかかわらず慢性持続感染が成立する。我々は、この慢性持続感染成立機序の解明を念頭におき、サル免疫不全ウイルス(SIV)感染サルエイズモデルにおいて、ワクチン誘導CTLのSIV複製抑制効果を検討してきた。これまでに、CTL誘導ワクチンによりSIV複製制御に至るMHCハプロタイプ90120-a共有サル群を同定し、このサル群の中に、約1年あまりの経過でCTLエスケープ変異を蓄積してウイルス血症の再出現にいたる例があることを見出した。本研究では、このSIV複製制御喪失機序の解明を目的として、蓄積した変異を有するSIVの複製能を検討した。 このウイルス血症再出現時のSIVは、3つのエピトープ特異的CTLに対するエスケープ変異を有していたが、この変異SIVの培養細胞系での複製能は、野生型SIVや最初に選択されたCTLエスケープ変異を単独に有するSIVよりも低下していた。つまり、複製能を失ってまでも、新たなエスケープ変異を蓄積していくことにより、CTLの制御を逃れてウイルス血症が再出現したわけである。したがって、このSIV複製制御には上記3つのエピトープ特異的CTLが関与していることが明らかとなった。HIV感染症におけるCTLエスケープ変異の出現はよく知られているが、変異出現がウイルス血症の増加・出現に結びつくことを示す報告は、これまでのところ、わずかにSHIV89.6P感染モデルにおける1例のみ(Nature 415:335,2002)であった。この1例では、1つのCTLエスケープ変異との相関を示したのみで、他のCTLの関与については調べられていない。本研究は、複数のCTLエスケープ変異の蓄積がウイルス血症の再出現に直結することを示す初めての貴重な報告である。
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