我々はASK1ノックアウトマウスを用いて、哺乳動物の自然免疫システムにおけるASK1-p38MAPキナーゼ系の役割について解析を行っている。マクロファージ系細胞で、ASK1はTLR4リガンドのLPS(lipopolysaccharide)によって強く活性化され、TLR2リガンドであるPGN(peptidoglycan)などでの活性化は非常に弱い。ASK1ノックアウトマウス由来の樹状細胞や脾細胞では、LPS刺激によるサイトカイン産生が特異的に抑制され、同時にp38の活性化が消失していた。一方、PGNよるp38の活性化はほぼ正常であり、ASK1-p38経路はTLR4に特異性が高いと考えられた。その特異的な活性化メカニズムについて検討したところ、PGN刺激などと比較して、LPSによるASK1及びp38の活性化は、各種抗酸化剤によって著しく抑制されたことから、TLR4シグナルの下流において、おそらく活性酸素種を介してASK1-p38経路の活性化が増強されていることが示唆された。また、TLRシグナルにとって重要なアダプター分子であるTRAF6がASK1とLPS刺激依存的に結合すること、この結合は各種抗酸化剤によって著しく抑制されることが明らかとなった。一方、PGN刺激ではこれらの現象は観察されない。実際にマクロファージ系細胞において、PGN刺激ではなくLPS刺激特異的に活性酸素が産生されることを、高感度の蛍光検出試薬を用いて確認している。さらにLPS誘導のIL-6などのサイトカイン産生を各種抗酸化剤は有意に抑制した。従って、LPS特異的な活性酸素産生を介したTRAF6-ASK1-p38経路の活性化が、TLR4シグナルにとって重要であると考えられた。本研究の結果は、TLR4下流において選択的シグナル伝達機構がMAPKKKレベルでも存在することを示した点で重要である。
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