研究課題
申請者は、tRNA修飾酵素の研究から、抗生物質のターゲットとして最もふさわしい酵素を発見した。ライシジン(Lysidine ; L)は側鎖にリジンを持ったシチジンの誘導体であり、バクテリアのAUAコドンを解読するイソロイシンtRNAに特異的に存在する。Lはアンチコドン1字目に存在し、tRNAが転写後にCからLへ修飾されることで、遺伝暗号解読能がAUGからAUAへと変化すると同時に、アミノ酸受容能がメチオニンからイソロイシンへとスイッチすることが知られている。したがって、AUAコドンの翻訳にはLの修飾が不可欠であり、Lを合成する修飾酵素遺伝子も必須遺伝子である。我々は3年程前から、機能未知遺伝子群の中から網羅的にRNA修飾遺伝子を同定するプロジェクト(リボヌクレオーム解析)を開始し、ライシジン合成酵素遺伝子(tRNA^<Ile> lysidine synthetase=tilS)を同定することに成功した[Mol Cell,12,689-698.(2003)]。この遺伝子は必須遺伝子であり、全てのバクテリアに共通に存在する。またヒトを含め動物には存在しないことが知られている。したがってこの遺伝子あるいは酵素を阻害する薬剤は、原理的に最も副作用の少ない抗生物質であると考えられる。本プロジェクトでは、試験管内ライシジン合成反応を用い、ライシジン生合成の分子メカニズムの解明と、阻害剤をスクリーニングすることによって、抗生物質のリード化合物を得ることを目的としている。ライシジン合成酵素に対する阻害剤をスクリーニングするためには、試験管内ライシジン合成反応を簡便にかつハイスループットで解析する系を構築する必要がある。今年度は、MALDI-TOF質量分析計を用いた試験管内ライシジン合成反応系を構築した。ハイスループットスクリーニングに対応するため、反応系の微量化と測定条件の最適化を図り、現時点で0.1pmolの基質tRNAを用いたスクリーニング系を構築した。実際に、ATPのアナログであるATP[α-S]を阻害剤として用いることで、本スクリーニング系でライシジン合成の反応阻害を観測することに成功した。現在、ライシジン合成反応の阻害効果のあるリジン誘導体の探索を開始した。
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