研究概要 |
本研究の目的は、HSV(herpes simplex virus)およびEBV(Epstein-Barr virus)感染直後に発現する制御因子およびウイルス特異プロテインキナーゼの機能発現機構を解析し、新たな抗ウイルス剤開発や抗ウイルス戦略構築に向けての基礎的な知見を蓄積することにある。今年度は、EBNA-LPが発現することによって引き起こされる宿主細胞の変化を、マイクロアレイによって網羅的に解析し、EBNA-LPの新規機能の解明を試みた。結果は以下の通りである。(i)レトロウイルスベクターを用いて、EBNA-LPを安定に発現するB細胞株およびコントロールの細胞株を樹立した。コントロールの細胞株およびEBNA-LP発現B細胞株5クローンを混ぜたものよりRNAを抽出し、マイクロアレイに供した。(ii)13,440個のヒト遺伝子をスクリーニングした結果、EBNA-LPの発現によって14個の宿主細胞遺伝子の発現が有意に変化することが明らかになった。その中で、最も発現が増強されたTARC遺伝子に焦点をあてた。TARC遺伝子は、Th2 typeのT細胞を特異的に遊走させるケモカインをコードしている。(iii)Northern解析およびELISA解析の結果、TARC遺伝子の発現が、転写およびタンパク質レベルでEBNA-LPによって増強されることを確認した。また、EBVをB細胞に感染させると、TARCの発現が増強することが明らかになった。(iv)幾つかのEBV陽性B細胞株について、TARCの発現を解析した。その結果、各細胞株のTARCの発現量は、機能的なEBNA-LPの発現と相関していた。以上の結果より、EBVがB細胞に感染するとケモカインTARCの発現が誘導され、その責任ウイルス因子はEBNA-LPであることが明らかになった。前述のように、TARCはTh2 T細胞を特異的に遊走させるケモカインである。Th2 T細胞は、B細胞を活性化するサイトカインを産生する。また、Th2 T細胞が産生するサイトカインは細胞性免疫に主要な役割を果たすTh1 T細胞を抑制することが知られている。EBV感染細胞においてEBNA-LPがTARCを誘導することによってTh2 T細胞が引き寄せられ、間接的に感染B細胞の増殖が刺激され、さらに、Th1 T細胞を抑制することによって感染細胞が宿主の細胞性免疫より回避されることが想像される。
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