本研究の目的は、HSV(HSV:herpes simplex virus)およびEBV(EBV:Epstein-Barr virus)感染直後に発現する制御因子およびウイルス特異プロテインキナーゼ(PK)の機能発現機構を解析し、新たな抗ウイルス剤開発や抗ウイルス戦略構築に向けての基礎的な知見を蓄積することにある。我々は本研究班において、EBVによるB細胞の不死化に大きな役割を果たしているEBNA-LPの機能が、EBV PKであるBGLF4によるSer-35のリン酸化によって制御されうることを明らかにしている。しかし、EBNA-LPは潜伏感染期に発現するのに対し、BGLF4は溶解感染期に発現することから、BGLF4が実際に感染細胞内でEBNA-LPを標的としているかは不明であった。本年度我々は、BGLF4がウイルス粒子中に存在し、生理学条件下においてカプシドよりリリースされることを明らかにした。また、BGLF4のカプシドからのリリースはリン酸化依存的であった。以上の結果は、EBVがB細胞に感染した際、BGLF4はウイルス粒子と共に細胞内に運び込まれた後、自己リン酸化依存的に細胞内にリリースされ、感染直後に発現するウイルス因子EBNA-LPのSer-35をリン酸化することを示唆している。 HSVのPKであるUL13のノックアウトウイルスの解析から、UL13の機能の1つはICP0やUL41といった様々なウイルス因子の発現を制御していることが明らかにされている。しかし、UL13はウイルス特異PKとして機能するだけでなく、EBV BGLF4同様にウイルス粒子構成タンパク質としても機能している。よって、UL13ノックアウトウイルスで得られる知見が、UL13のPK活性の消失によるものか、PK以外の機能の欠失によるものかは不明であった。今年度我々は、UL13のinvariant lysine (Lys-176)に点変異を導入した組み換えHSV(YK403)を構築した。YK403は野生体と同様にUL13タンパク質を発現するが、PK活性を消失していた。興味深いことに、YK403感染細胞においては、UL13ノックアウトウイルス感染細胞で観察されるICP0やUL41といったウイルス因子の発現低下が観察されなかった。以上の結果は、UL13のPK活性は、ウイルス因子の発現制御には関与していないことを示している。つまり、UL13は、PK以外の未同定な機能を有し、その機能がウイルス因子の発現制御をしていることが明らかとなった。
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