研究概要 |
本研究では、作用機序の異なる2種類の抗HIV剤、すなわちCXCR4アンタゴニストおよびgp41標的膜融合阻害剤を基盤分子として設定し、「ペプチドリード医薬品の理論的かつ実践的な開発戦略研究」により蓄積した独創的な合成基盤技術を活用して、有効な化学療法剤の開発を目指した研究を行った。2003年に米国でFuzeon (T-20、Trimeris, Roche)が販売されたことにより、エイズ及びHIV感染症の治療薬としてHIV侵入阻害剤が注目され、逆転写酵素阻害剤とHIVプロテアーゼ阻害剤を併用して用いる療法HAARTを補う意味でも期待されている。我々は、このHIVが細胞に侵入する動的超分子機構のうち、1.CXCR4と2.gp41をターゲットとし阻害剤の開発研究を行った。著者は以前、HIVの侵入阻害剤{T細胞指向性HIV-1(X4-HIV-1)の細胞への侵入を阻害するCXCR4アンタゴニスト}であるアミノ酸14残基ペプチドT140とこのT140のpharmacophore Arg^2,Nal^3,Tyr^5,Arg^<14>を含む低分子誘導体である環状ペンタペプチドFC131を見い出した。今年度、FC131の環状ペンタペプチドを基にして環のサイズを小さくするために、Nal-Glyのジペプチド部位をγ-アミノ酸で置き換えた一連の環状テトラペプチドを合成し、さらなる低分子の高活性リード化合物を見い出した。また、FC131の側鎖の官能基の最適化をはかるため、D-Tyr残基の芳香環部位を種々変えた誘導体や、2個のArg残基の側鎖の長さを変えた誘導体、立体的に固定化した誘導体、グアニド基を他に変換した誘導体等を合成した。一方、膜融合阻害剤に関しては、以前我々は、gp41のC端側α-helix領域ペプチドC34を基に独自に設計したSC34(アミノ酸34残基のペプチド)が、gp41のN端側α-helix領域の3量体構造に作用する膜融合阻害剤になることを見い出した。今年度、このSCペプチドが内側のgp41-N端側helix領域の3量体構造に効率良くfitするようなGlu-GluとLys-Lysのジペプチドミメティックを創出し、SC誘導体の非ペプチド化を図った。
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