i)腸管病原性大腸菌(EPEC)がtype III分泌装置を利用して分泌するエフェクターのうち、少なくともMap及びEspFが、EPECによる腸管上皮バリア破壊に、それぞれ部分的に関与することを明らかにした。両エフェクターを共に欠損した重複変異株について調べたところ、単独変異株よりもさらにバリア破壊の程度が低くなり、MapとEspFの協調作用が疑われた。しかし、この重複変異株はまだ有意なバリア破壊能を示し、両エフェクター以外の未知のバリア破壊因子がさらに存在することが示唆された。 ii)上記重複変異株に対する相補実験から、腸上皮バリア破壊にはMapが優位に働いていることが示唆された。MapのN末端側に存在するミトコンドリア局在化配列を欠失させるとMapによるバリア破壊が起こらないことから、Mapが腸上皮バリアを破壊するためには、ミトコンドリアに移行する必要があることが示唆された。 iii) i)の項で述べた未知のバリア破壊因子を同定すべく、エフェクターの網羅的スクリーニング系を構築した。このスクリーニング系はレポーターとしてβ-ラクタマーゼあるいはカルモデュリン依存性アデニレート・シクラーゼを使用し、これらの上流に目的とする因子の遺伝子をクローニングする。既知のエフェクターであるEspF、Tirを利用してこのスクリーニング・ベクターの有用性を検討したところ、レポーターの酵素活性を検出することで、高感度かつ特異的にエフェクター分泌を感知することができた。現在このスクリーニング系を利用して、本研究の目的である、宿主細胞との接触依存性に分泌されるエフェクターのクローニングを進めている。
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