研究概要 |
本研究では、病原微生物や悪性新生物に対する有効な免疫応答を引き起こし、かつ自己成分に対する免疫寛容の維持においても極めて重要な役割を果たしていると考えられるようになった樹状細胞(dendritic cells, DCs)に対し、ゲノム科学の新しい手法を用いた網羅的な解析を行っている。 我々は、新たに開発した手法「UPATrap」を利用してnonsense-mediated mRNA decay(NMD)と呼ばれるmRNAサーベイランス機構を抑制すれば、標的細胞(この場合はマウスのES細胞)中で発現していない遺伝子(免疫系遺伝子の多くはこのグループに属する)の機能を、ランダムかつ確実に破壊することができる、という事実を見出した。我々が開発した新手法は、2004年9月に提唱された「The Knockout Mouse Project」(遺伝子トラップと遺伝子ターゲティングの手法を組み合わせ、マウスES細胞中の全遺伝子を今後5年以内に破壊する、という壮大なプロジェクト)の遂行にとり、大きな障害となっているステップを乗り越えるのに役立つと考えられる。 平成17年度は、この「UPATrap」法により、マウスES細胞中の内在性遺伝子スペクトラムとベクター挿入部位の両者に「偏り」が存在しない理想的な遺伝子トラップを行い、トラップされた遺伝子断片を用いてマイクロアレイを作製した。このマイクロアレイを用い、パイロット実験としてマウスの免疫担当細胞やリンパ組織で特異的に発現されている新規遺伝子を探索したところ、マウス胸腺のCD4-8-細胞とCD4+8+細胞のみに限局して発現されるmRNA-like non-coding遺伝子がトラップされたES細胞クローン8v3-033を見出すことに成功した。現在、このクローンを用い、ノックアウト・マウスの作製を進めている。
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