マラリアは毎年250万人もの死者をだす世界再大規模の感染症である。今なおマラリアが人類の脅威となっている大きな原因として、濃厚感染地域で反復感染を受けてもマラリアに対する終生免疫が得られないように、マラリア原虫の持つ巧みな免疫回避機構が挙げられる。有効なマラリアの制御法、ワクチン、新規薬剤の開発のためには原虫の免疫回避機構を理解することは重要である。申請者等はこれまでにマウスマラリアモデルにおいて、マラリア原虫が宿主の免疫制御性T細胞を選択的に活性化することで免疫抑制を起こし有効な免疫応答の樹立を阻止する、という新たな免疫回避機構を提唱してきた。本研究課題ではマラリアにおける制御性T細胞による免疫抑制のメカニズムについて詳細に解析した。マラリア原虫感染後早期より免疫担当器官である脾臓で制御性T細胞が分裂増殖することでその割合を増加させること、また感染マウスの制御性T細胞は非感染マウスの制御性T細胞よりも有意に、T細胞増殖を抑制する機能が強くなっていることを明らかにした。さらに感染マウスの制御性T細胞はマラリア原虫抗原を認識することで機能を発揮すること、その強力な抑制効果はIL-10、TGF-βの既知の抑制性サイトカインによるものではないこと、通常の制御性T細胞の抑制を解除できるGITRの刺激に対しても感染マウスの制御性T細胞は強い抑制を維持することも発見した(投稿中)。以上の成績から、マラリアによって誘導される制御性T細胞は通常の制御性T細胞の特性を保ちながらも、強い活性化を受けることにより強い抑制効果と抑制解除に抵抗性を獲得することで、原虫にとって有利になるよう宿主免疫を効率良く抑制していることが示された。今後引き続き、原虫による制御性T細胞の活性化機構の解明、マウスモデルで見られた現象のマラリア患者での検証を中心に研究を進めていく予定である。
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