研究概要 |
プリオン病病原体の実体にせまる手がかりとして多様なプリオン株(strain)の存在がある。先行するプリオン株感染が後続の異なるプリオン株感染を阻止するという現象が動物実験では報告されている。しかし免疫系の関与などその詳細は不明である。複数のプリオン株に感受性を示す培養細胞(GT1-7)を用いてプリオン株間の干渉現象を種々の株の組み合わせで検討した。とくに、感染細胞中にほとんどプロテアーゼ抵抗性の異常プリオンタンパク(PrP^<res>)の蓄積を来たさない弱毒株(SY)による強毒株(Chandler,22L,Fukuoka-1)感染阻止効果も検討した Chandler感染細胞は後続のFukuoka-1感染に感受性であったが、22L感染はFukuoka-1感染を完全に阻止した。このことは、感染阻止現象が所謂ワクチン効果によるものではなく、感染細胞中での干渉機構によるものであることを強く示唆している。また、この干渉が株の組み合わせに規定されることも判明した。さらに、感染細胞中にほとんどPrP^<res>の蓄積を来たさないCJD由来弱毒株(SY)が強力にChandler,22L,Fukuoka-1など複数の強毒株(高レベルのPrP^<res>を有する)の感染を干渉することが明らかとなった。このことはPrP^<res>が干渉を規定する因子ではないことを意味している。 干渉の分子機構解明を通してプリオン病原体の本体を明らかにすることが今後の課題となる。PrP以外の分子(RNAなど核酸を含む)を想定する蓋然性も十分にある。干渉現象がプリオン感染に付随することを考えれば、この未知分子は複製の実体(病原体)を構成するという考え方にもつながる。また、無毒化プリオン株を用いたBSEなどの強毒プリオン感染予防方策開発への途を開いた成果でもある。
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