ミコール酸は、抗酸菌細胞壁を構築する長鎖脂肪酸で、菌の生存に必須の分子である。このミコール酸と宿主由来のグルコースの縮合反応の結果として産生されるグルコースモノミコール酸(GMM)に対する免疫応答は、抗酸菌感染の有用な指標でありかつ有効な防御機構となることが予想される。この仮説の検証のため、モルモットおよびCD1トランスジェニックマウスにMycobacterium avium complex (MAC)を感染させ、誘導されるGMM特異的免疫応答をモニターしたところ、MAC感染モルモット生体内でGMMが生合成され、抗GMM抗体が産生されることを観察した。このGMM特異的液性免疫応答は、CD1トランスジェニックマウスでは検知されなかったことから、両モデル動物における自然免疫系を中心とした免疫システムの差異が、MAC感染に伴うGMM特異的免疫応答を有無に関与している可能性が考えられた。一方、グルコース以外にGMMの産生をコントロールする環境因子の探索を進め、生育温度が37℃より低温の場合に、多量のGMMが産生され、GMM特異的T細胞が効率よく活性化されることを見いだした。抗酸菌感染が成立する肺胞や皮膚は外気に接しており、感染初期には菌は体温より低い温度で生育する。したがって、この環境下で生成されるGMMを標的にした免疫応答は、悪染早期の宿主防御に極めて有効であると考えられ、GMMを主体としたワクチンやそれに対する免疫応答を利用した感染早期の診断法の確立につながる可能性が示唆された。
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