研究課題
マウス肝炎ウイルス(MHV)は受容体(MHVR)を介して細胞に吸着、侵入するが、JHM株cl-2はMHVRを介して感染後、感染細胞からMHVR非発現細胞へ感染することが知られている(MHVR非依存性感染)。これは標的細胞の近傍に存在するS蛋白がMHVRに結合すること無く活性化することによると考えられる。この可能性を検証するため、spinoculation (SP)法でウイルスと細胞を隣接させることにより、MHVがMHVR非発現細胞へ感染するか否かを検討した。また、自然条件下でのS1サブユニットの遊離の検出も試みた。本研究ではcl-2とMHVR非依存性感染活性のないsrr7を用いた。SP法は、MHVR非発現BHK細胞にウイルスを接種し、1750gで遠心後、37℃で16時間培養した。ウイルス感染は、細胞を固定、染色後、巨細胞数を算定した。また、cl-2、srr7 S蛋白をBHK細胞で発現し、培養上清中の遊離S1蛋白をウエスタンブロット法で解析した。リアルタイムPCRによりSP法で接種したウイルスの細胞への吸着は著しく上昇し(20-150倍)、その吸着率にはcl-2、srr7間で差がないことが明らかになった。また、SP法により、cl-2のBHKへの感染は著しく促進された(約200倍)が、srr7の感染は認められなかった。一方、組換えS蛋白の解析では、受容体非依存性感染能力があるcl-2でのみS1が自然遊離し、培養上清中へ放出されることが確認された。これらの結果から、受容体非依存性感染は粒子が細胞に接着することとS1がS2から遊離することが不可欠であることが示された。以上のことから予想される受容体非依存的感染機構は、細胞表面近傍に存在するウイルス粒子のS1サブユニットが遊離することによってS2の構造変化がおこり、ウイルスと細胞の膜融合が引き起こされることによると推測された。
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