研究課題
エイズウイルス(HIV/SIV)外膜に存在するスパイクを構成するEnvタンパクには多数のN結合型糖鎖が存在する。この糖鎖はEnv表面の大部分を覆い、宿主免疫がウイルス感染制御を困難にしている原因と推測される。SIVmac239を用いたサルエイズモデルを元にEnv SUに付加している22個の糖鎖のうち5個を欠損した変異(d-5G)が宿主により感染制御されること、d-5G感染ザルにはSIVmac239に対する強い防護免疫が誘導されていることを明らかにした。この原因としてd-5G感染に誘導される獲得免疫の解析を行ったが、糖鎖欠失による特定の獲得免疫(中和抗体、細胞性免疫)が誘導されるという結果は得られなかった。そこで当研究では獲得免疫誘導前での感染と宿主応答の解析からd-5G感染が制御される機序の解明を行う。糖鎖欠失はウイルスの性質への影響が推測されたことから、糖鎖が存在するEnvにより決定される性質について解析した。糖鎖欠失はV1/V2領域に新たな抗体エピトープの出現、Envの立体構造に変化を与えた。このスパイクの構造の変化はウイルスの感染性(細胞指向性、感染のためのウイルスレセプターの利用性)、中和抗体感受性に影響を与えた。SIVmac239がT細胞指向性、ウイルスレセプターとしてCD4,CCR5を用いること、中和抗体抵抗性を示すのに対し、d-5Gはマクロファージ指向性、ウイルスレセプターとしてCCR5のみを用いCD4を必要しない(CD4非依存性)、中和抗体感受性を示した。次にこのような性質の変化と関係するd-5Gの糖鎖欠失変異について解析した。マクロファージ指向性については2,3,4番目の欠失ウイルスが最大の増殖性を与え、さらに糖鎖欠失が増えると低下した。CD4非依存性についても2,3,4の3欠失により最大となったがさらに増加することによる低下は見られなかった。中和抗体感受性については2、3、5番目の3欠失で最大となった。3番目の欠失を元に戻すことによりd-5Gの性質が失われた。以上の結果からd-5Gのウイルス学的性質はV1/V2領域に存在する2,3番目の糖鎖欠失が重要であることが判明した。
すべて 2004
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