研究概要 |
急性灰白髄炎の原因ウイルスであるポリオウイルス(PV)は神経指向性を持つ.PVは脊髄や脳幹の神経細胞で選択的に増殖し、非神経組織ではウイルスが到達しても顕著な病変を生ずることがない.我々はヒトPVレセプター遺伝子を発現するtgマウスモデル(PVR-tg)を用いてこのPVの組織特異性の解明を目指してきた.PVR-tgとIFNα/βレセプターノックアウトマウス(Ifnar KO)を交配し、I型IFN応答のないtgマウスにPVを感染させると本来は標的とならないはずの肝臓、脾臓、膵臓などの組織でもPVが効率良く増殖し、病変を生じた.すなわちPVの増殖はIFN応答によって大きく左右される.PVR-tgマウスのIFN応答を調べると非神経組織ではウイルス感染前から2',5'-OAS,RIG-I,MDA5,IRF-7などの発現レベルが比較的高く保たれており、ウイルス感染に際し速やかで強いIFN応答が可能であった.逆に神経組織においてはウイルス感染前からこれらの遺伝子の発現レベルが低く、ウイルス感染直後に速やかで十分なIFN応答ができない.すなわちPVの組織特異的感染はIFN応答が組織によって不均一であるために生じていることが判明した.さらにOAS,RIG-I,MDA5などはIfnar KOマウスにおいても非神経系より多く発現していること、つまりIFNシグナリングに依らない発現制御により非神経系でより高レベルで発現することが判明した。さらに体内の一部でウイルス感染やpolyI:polyC刺激によってIFNを誘導してもおそらく血液・脳関門をIFNが通過しにくいために神経系にはIFN刺激が伝わり難いことが判明した。これの原因でIFN応答は組織によって異なった程度の反応をし、それがPVの組織特異性をもたらす原因であることが判明した。
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