マラリア原虫の細胞質には、1-Cys型と2-Cys型の2種類のPrxが局在し、1-Cys型が赤内期のトロホゾイトで特異的に発現するのに対し、2-Cys型は蚊体内での発育型を含めた全発育環を通じてほぼ構成的に発現する。これらPrxの発現は、それぞれの生理機能、原虫のヘム代謝に関連した機能および細胞内過酸化物の還元機能を良く反映し、mRNAとタンパクの発現プロファイルが完全に一致することから、遺伝子の転写段階で調節されていると考える。そこで、Prx遺伝子の転写調節領域を調べる目的でレポーターアッセイをおこなった。その結果、1-Cys型Prxと2-Cys型Prx遺伝子の5'には、ともに、レポーター遺伝子の転写を誘導するプロモーター活性が観察された。Deletion mutantsでのアッセイから、1-Cys型Prx遺伝子の5'にレポーター活性を亢進する領域を見出した。このことから、同遺伝子の転写は、5'に存在するcis-element(enhancer)によって正の調節を受けていることが示唆された。このenhancer領域は、リング期およびトロホゾイト/シゾント期の両発育期で認められ、その位置は異なっていた。この知見は、リング期でのenhancer活性が、クロマチン構造などepigeneticな機構によって更に高次の調節を受けて、本来の染色体上では抑制されている可能性を示唆している。一方、2-Cys型Prx遺伝子の5'についてもenhancer領域を見出した。この領域は、リング期およびトロホゾイト/シゾント期の両発育期で共通していた。この知見は、おそらく同遺伝子の転写が両発育型を通じて同一のcis-elementによって正の調節を受けていることを示唆するもので、赤血球内寄生期における2-Cys型Prxの構成的な発現をよく反映している。1-Cys型Prx遺伝子enhancer領域をプローブとしてゲルシフトアッセイをおこなったところ、原虫核抽出物中に同領域に特異的に結合する因子の存在を確認した。
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