研究概要 |
非結核性抗酸菌症、特に、Mycobacterium avium complexによる肺感染症(MAC症)は、慢性、難治で、有効な治療法に乏しいため、本研究では、発症に関わる遺伝因子を明らかにして、病態解明の一助とすることを目的としている。 初めに二施設共同研究により、100例以上の非結核性抗酸菌感染症(MAC症)の患者DNA試料の提供を受けて、候補遺伝子関連解析を実施し、NRAMP-1遺伝子およびCFTR遺伝子との関連を明らかにした(それぞれ、p=0.03,p=0.03)。さらに、新規試料を収集し、マイクロサテライトマーカーによる疾患感受性遺伝子のゲノムワイド関連解析を施行した。肺MAC症症例300例、対照300例につき、東海大学猪子英俊教授らとの共同研究により、Pooled DNA sampleを用い、19,651個のマイクロサテライトマーカーを用いて、三段階スクリーニングによるゲノムワイド関連解析を実施し、さらに個別タイピングを行ったところ、第6染色体短腕領域のマーカー(HLA領域)に有意なものが認められた。特に本疾患に特徴的な女性発症者との関連は統計的に有意であった(p=0.002)。 解析する候補遺伝子の選択には限界があるため、疾患感受性遺伝子をスクリーニングする大規模な系としてゲノムワイドアプローチが期待されている。非特異的増幅産物、アリルによる増幅効率の違いなど、実験的偽陽性を生じる場合がみられたが、疾患と関連がみられるマーカーが見いだされた。検討したNRAMP-1,CFTR,HLA領域の遺伝子多型と疾患との関連はいずれも有意ではあるが、十分強固とはいえなかった。さらに別の方法による主要疾患感受性遺伝子の探索が必要と思われた。 非結核性抗酸菌感染症の発症に関連を示す複数の遺伝子およびその候補領域を同定した。候補遺伝子領域は、HLA遺伝子など多型性に富む多くの免疫応答遺伝子の存在する領域として知られるため、強い関連を示す遺伝子を同定することで、本疾患の病態解明、治療、予防に貢献するものと期待される。
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