研究概要 |
工部大学校の初期の卒業生で,日本の電気工業の創始者のひとりであり,東芝社のルーツのひとつ(白熱電球国産のための白熱舎)を設立した藤岡市助について,藤岡家から岩国市へ譲渡された資料を調査した.藤岡市助関係資料については岩国学校教育資料館で1件1行の棒リストを作成中であり,文書資料は相当に作業がすすんでいる.器物資料は,藤岡市助身辺の遺品,藤岡家の家庭物品,電球,照明・配線器具,真空管・ラジオ部品,写真DPE器具などから成る.技術関係器物の同定には専門知識が必要であるので,科研費研究チームに照明・ラジオ専門家を加えて調査し,同定してリストを作成した.器物資料のうちのラジオ・電気関係について,年代,製造国・製造者等に留意しつつ調査し,各器物がなぜ藤岡資料に集められたかの来歴を考察した.今回調査したラジオ関係資料は,藤岡一族のエンジニアの仕事の結果としてたまってきた部品類のように思える.これらの史料は,それだけで電気部品やラジオ部品の歴史を語るには不充分なものであるが,この集積された部品を残された文献資料や生活用品と合わせて,エンジニアの仕事を再現することができるかもしれない.電気技術者の開発の現場,創造の過程をこのような史料によって構成することができれば,「ものづくり」に関心のある若者や教育者にアピールすることができるのであろう."江戸のモノづくり"プロジェクトは,"近世から近代,そして現代へと続く日本の知識と実践(科学と技術)にどのような日本的特徴や要因が見られるのかを,各分野から実証的に明かにしようとするもの"(『第一回江戸のモノづくり国際シンポジウム』,2002年,5頁)である.藤岡市助関係資料の中のラジオ・電気関係器物資料は,現代の科学技術までを見わたすこの文脈において,重要な意味があると思われる.
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