研究概要 |
"江戸モノ"プロジェクトは理学あるいは文化中心の色合いが濃く,産業技術・製造技術という意味での"モノづくり"にはまだ距離があり,特に電気関係の研究は本研究以外には非常に少ない.本研究は,日本の近代電気工業をひらいた藤岡市助の資料(岩国市徴古館・学校教育資料館所蔵)の調査を中心に行った.藤岡市助関連資料は,圭助(子),良介(孫),重助(曾孫)の4代および先祖以来の藤岡家資料を含み,重助氏から岩国市に譲渡されたものである.同資料は4千点弱あり,文書資料と器物資料が約半々であり,次のように大別できる.(1)市助の講義録,論文および報告書等,(2)講義録等,(3)私物,(4)表彰,特許等,(5)著作物,(6)洋行関連,(7)写真,(8)市助の参考文献等,(9)電気事業関連書類,(10)欧米企業のパンフレット,カタログ等,(11)市助あて手紙等,(12)市助ならびに関係者を題材とした書物等,(13)新聞記事等,(14)電気製品,テスター等,(15)岩国関係古文書,(16)由緒ありとされる品々,(17)その他.これらの資料は,日本と世界,電気関係各事業,洋行,欧米史,工部大学校・教育,日本と岩国,時代と先見性,藤岡家,明治から昭和への生浩史,郷土の偉人と次世代の若者,東京電気の技術史等といったさまざまな視点から検討に値すると思われる.藤岡市助関係資料については岩国市徴古館・学校教育資料館で棒リストを作成中であり,これと連携し,協力者として電気・照明・ラジオ技術者の専門家の参加を得て,かつて,特に器物資料(藤岡市助身辺の遺品,藤岡家の家庭物品,電球,照明・配線器具,真空管・ラジオ部品,写真DPE器具な)の同定を行った.徴古館所蔵の吉川家寄贈図書類中の藤岡著『電信小誌』および藤岡市助関資料のマイクロフィルム作成をした.藤岡の下で白熱電球国産化を行った三宅順祐の工部大学校卒業論文のトランススクリプトを作成した.電信機ほか電気機器に中心部品である電磁石の倣製について,鹿児島の研究グループと連携して,島津尚古館関係の絶縁被覆銅線の調査を行った.本研究で作成したマイクロフィルムとトランスクリプトは,電球工業史や電気事業史の今後の研究にとって,基礎史料となる.さらに今後,工部大学校電信科卒業論文のトランスクリプト作成がすすむことが期待される.
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