研究課題
たたら製鉄は、官営八幡製鉄所の創立とともに使命を終え、長く顧みられることがなかった。そのため「謎の製鉄法」と言われ、実態については不明な部分が多かった。しかしながら、昭和40年代に社団法人日本鉄鋼協会によるたたらの復元が実施されて以降、たたら製鉄の実像はほぼ解明されたと言ってよい。現在では、小学生等を対象にした「身近なモノ作り実験」のたぐいとして取り扱われるほどである。しかしながら、たたら炉と近代高炉の技術形態比較学の立場からの研究はまったく行われていない。本研究では明治期の近代高炉との比較に基づいて、たたらの技術形態を考察した。たたら炉であれ、近代高炉であれ、原料は酸化鉄であり、還元剤が炭素であることに変わりはない。つまり製鉄反応の基本反応はFe_2O_3(酸化鉄)+(3/2)C炭素)=2Fe+(3/2)CO_2である。ところが、近代高炉の還元剤は石炭を乾留したコークスであるに対し、たたらの還元剤は木炭である。我が国の石炭産出量が僅少であることは言うまでもないが、江戸期の鉄鋼生産量は現今とは比較にならぬから、石炭産出量云々によって、たたら炉と近代高炉の差異の理由とするわけにはいかない。木材を乾留すると木炭を得る。石炭を乾留するとコークスを得る。たたら炉の実像がすでに解明された以上、日本人は石炭を乾留するとコークスを得ることを発見しなかったと結論せざるを得ない。比較技術形態学は、なぜ発見できなかったかを考察し、製鉄法を総合技術として把握することにより、たたら炉と近代高炉の差異を時系列と技術分野の2軸方式により視覚化することを得た。
すべて 2004
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High Temperature Materials and Processes 23・5,6
ページ: 377-382