研究概要 |
星野木骨は1792年に医師・星野良悦と工人・原田孝次によって我国で最初に作られた成人男性の骨格模型で,大槻玄沢により「身幹儀」と命名された。舌骨,耳小骨を除く全ての骨が揃っており,第2-12胸椎と第2-5腰椎が一体として作られている他は,各骨は別々に作られ,関節面で臍と臍穴で結合するようになっている。しかし臍は短く,全身を連結した形で組み立てられていたとは考え難く,関節をはめたり外したりして骨格研究に用いたと推察される。各骨の形状は『解体新書』の骨格図に比べると極めて正確で,骨は薄茶色に,軟骨は白く塗られている。頭蓋の制作にあたっては,真骨を縫合に沿って切り分け,各部の模骨を作り,頭蓋内部から針金と糊で留めたと考えられる。X線撮影及び内視鏡検査によって頭蓋内を観察すると,鶏冠と篩板,トルコ鞍,錐体,神経・血管を通す各孔や静脈洞溝などが作られ,頭蓋内外はこれらの孔により正確に連絡されている。このように頭蓋内構造を正確に作りながら,頭蓋冠を被せて当時の手法では見えないようしたのはなぜか,興味深い。2004年、重要文化財に指定された。 奥田木骨は1820年頃に,医師・奥田万里と細工師・池内(名は不詳)によって制作された成人女性の骨格模型である。専用の台座と支柱が備わり,座位に組み立てられるようになっている。脊柱と頭蓋は鉄製の棒板で支えられ,関節を留める金具や竹串に工夫がみられる。塗りは施されていない。胸郭や片方の手根骨・足根骨などは一体として作られ,組み立てて展示することを前提にした簡略化が随所に見られる。頭蓋冠は水平断され,留め具をはずせば頭蓋内の構造も観察できる。一部の骨は男性骨格としても大きすぎ,モデルとされた骨格の一部が欠損または破損していたものと推察される。保存は完壁すぎて手垢も埃も付着しておらず,地道な骨格研究に用いられたとは考え難い。
|