本研究では江戸時代に阿波藩(徳島県)で製造され、俳画や公文書に用いられた和紙製品を対象に、近赤外分光法を用いて、古文書和紙材質の非破壊計測を行った。また奈良時代から現代の和紙試料を用いて重水素置換法による、経年劣化に関与する和紙の超微細構造の分析を行った。主な成果は以下のとおり。近赤外分光法を用いることで、木質文化財の材質を非破壊・短時間で計測できる。これは、貴重な文化財の保存と修復のための基礎データとなる材質情報を迅速・簡便に分析できる点が意義深い。同様な手法は、皮革・繊維製品などの、特に生物材料を素材とする文化財にも容易に転用が可能であり、これまで個々に計測されてきた文化財の材質計測に統一的な分析法の提供を可能とするものである。本研究を通して、木質材料での近赤外光の吸収特性が明らかとなった。従来、分光分析では一般に得られるスペクトル情報から具体的な構成成分への帰属が困難であったが、本研究の結果、木質文化財の材質を発現する構成成分の物理的・化学的変化を近赤外分光法を用いることで容易に計測することができる。重水素置換法を援用することで、これまでに無い超微細構造での木質文化財の劣化機構を明らかにできた。
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