考古学研究と埋蔵文化財行政は、知識・技術・思考などの諸側面で密接な関係にある。遺跡の発掘調査は考古学研究の出発点であるが、ここ20〜30年の記録保持のための発掘調査の進展で、日本考古学はいちじるしい情報過多に陥っている。それは中世資料に関してもなんら例外ではない。 行政機関やその外郭団体などによって掘り出された考古資料は、急速な発掘調査の進展状況に整理や分析が追いついていない情況にあって、学校教育などへの活用も容易ではない。したがって、埋蔵文化財行政・博物館・研究所・大学等が各々の環境に基づいた研究を進め、総体としての国民の豊かな生活、いかえれば歴史のストックを活かした街づくりに考古資料を十分に活用できるような体制づくりが急務になっている。そして、そのための調査・研究とそれに基づいた政策提言が不可欠になっている。 いっぽう、記録保持のために投下された費用にたいして、その効果が十分に表れているかというと、こちらもそうとは言い難い情況にある。国民が歴史像を形づくっていく拠点としての史跡公園や歴史博物館が、わかりやすい歴史情報を提供しているかどうかも、いま一度再検討する必要に迫られている。 つまり、国民の歴史意識形成のための考古学研究という視座にたった体系的歴史像を樹立しなければならない。国民の知的要求に応えることがいま急務になっている。現代を理解していくばくかの未来への見通しに寄与する研究が求められている。そういった観点に基づいた調査・研究と基礎的考察を実施した。
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