由比ヶ浜中世集団墓地遺跡から出土した人骨24体を対象にDNA分析を行った。抽出したDNAを使ってPCR法によるミトコンドリアDNAのD-loop領域2ヵ所の増幅を試み、その塩基配列を決定した。その結果、14体でDNAの解析に成功した。この塩基配列データを基に遺跡内部での血縁関係の推定を行った。14体は合計で11のハプロタイプに分かれ、特定のハプロタイプに収束することはなかった。この結果から、この墓地が特定の血縁集団の墓地である可能性は少ないことが判明した。次に、この集団の遺伝的な性格を明らかにするために、D-loop領域の塩基配列から各個体のハプログループの推定を行った。いくつかの個体でハプログループを判定することはできなかったが、大多数ではD-loopの2ヵ所の配列から演繹されるハプログループは一致した。この中世集団墓地遺跡人骨に見られるハプログループは、基本的には現代日本人で多くを占めるものだった。解析個体数を更に増やし、各時代・地域のDNAデータと比較していけば、中世における関東地方の遺伝的な特色の解明や、中世最大の都市である鎌倉の遺伝的な多様性の推定も可能であると考えられる。今回の研究で、中世鎌倉人骨には、DNAが解析可能な状態で保存されていることが明らかとなったので、次年度は更に解析個体数を増やして、これらの問題に取り組む予定である。また鎌倉の中世墓地には単体で埋葬された人骨も多く存在する。これらの解析を通して、埋葬人骨間の血縁関係から、墓地の性格の解明も行う予定である。
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