B型肝炎ウイルス(HBV)は、永い年月をかけて肝臓をむしばみ、慢性肝炎から肝硬変、ひいては肝細胞癌、肝不全をひきおこす。本邦においてHBV新規感染は減少しているものの、今なお肝硬変やHCCの20%に関与している。HBVによる肝発癌はC型肝炎によるものに比べ若年発症であり、またウイルスゲノムが宿主ゲノムに組み込まれることからoncogenicウイルスと考えられている。今までの報告からHBVのX蛋白が発癌に関与していると考えられている。HBx遺伝子産物と結合する宿主内蛋白をHBV遺伝子型別に同定し機能解析を行うことで、HBVによる肝発癌の分子機構を明らかにすることを目的として研究を行なった。Myc tagとFlag tagの配列間にTEVプロテアーゼの切断配列をもつdual tag発現プラスミドにB型肝炎ウイルスの遺伝子産物であるHBxのcDNAをクローニングした。このプラスミドを哺乳類細胞に導入し、Myc・Flagの2つのタグにより肝炎ウイルス蛋白複合体を高純度に精製し、その複合体を形成する蛋白を溶出後、SDS-PAGEにて展開し銀染色を施行。肝炎ウイルスに特異的に結合するバンドをゲルから切り出し、プロテアーゼ消化後質量分析計により蛋白質の同定を行った。本実験でHBxと結合する宿主分子の複合体コンポーネントのひとつとしてJab1(Jun activation domain-binding protein 1)を同定した。この蛋白はHBxと直接結合し、HBxのアミノ酸30-125の領域に結合することが明らかとなった。またこの両者は細胞質に共局在し、HeLa細胞に共発現させることでHBxにより誘導されるAP-1の活性化が増強された。一方、Jab1と結合できない変異体HBx(60-154)ではその働きが無く、両者の結合がAP-1活性化に重要であることが明らかとなった。
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