これまでにSTAT3をマクロファージで特異的に欠失させたマウスを作製し、STAT3がマクロファージでのIL-10シグナルに必須であり、マクロファージの機能抑制、さらには生体レベルで慢性炎症の抑制に必須であることを明らかにした。そして、病原体構成成分を認識するToll-like receptor(TLR)ファミリーが、STAT3非存在下でマクロファージの異常活性化による慢性腸炎の発症のトリガーとなることを、TLR4/STAT3二重変異マウスの解析により明らかにした。さらに、IL-10刺激によりマクロファージで誘導されるBcl-3が、TLR刺激依存性のTNF-α産生を特異的に抑制していることを明らかにした。今年度は、大腸粘膜固有層に存在するマクロファージの機能を解析した。その結果、正常マウスの大腸粘膜固有層マクロファージは、TLR刺激依存性の炎症性サイトカインの産生が認められないが、慢性腸炎を発症するIL-10ノックアウトマウスやSTAT3変異マウス由来の細胞はTLR刺激依存性に炎症性サイトカインを産生した。そこで正常マウスとIL-10ノックアウトマウスの大腸粘膜固有層マクロファージ間でTLR応答性が異なる分子機構を解析するため、両者間で遺伝子発現の差をDNAマイクロアレイで解析した。その結果、Bcl-3と同じIκBファミリーに属するIκBNSがBcl-3とともに正常大腸粘膜固有層マクロファージに特異的に発現していることを見出した。IκBNSをマクロファージに発現させると、LPS刺激依存性のIL-6産生が特異的に減少していた。さらにIκBNSを発現した細胞では、NF-κBのDNA結合能に障害が認められた。さらに、IκBNSはIL-6プロモーターにp50 NF-κBサブユニットと共に恒常的に会合していることがクロマチン免疫沈降法の解析から明らかになった。さらに、RNAiによるIκBNSのノックダウンマクロファージでは、LPS刺激依存性のIL-6産生が特異的に増加していた。以上の結果から、正常大腸粘膜固有層マクロファージに恒常的に発現しているIκBNSがマクロファージ系細胞において、IL-6産生の抑制に特異的に関与していることが明らかになった。
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