癌の悪性化阻止の目的で、癌の浸潤・転移能に関連する分子の解析を行った。NESHはSH3領域を有する新しいアダプター蛋白質であるが、Ablチロシンキナーゼに結合し下流へのシグナルを調節しながら細胞運動や浸潤能を負に制御していることを明らかにした。SNPs解析として、主として乳癌の症例90例と肝内結石の症例20例についてCaveolinとNESHについて検討した。乳癌の中のスキルスタイプなど特に悪性例においてCaveolin132プロリンからロイシンへの点突然変異例が見つかったが、これはCaveolinのスカフォールドドメイン領域内であり、シグナル伝達に影響していることが予想されたが、事実この変異をもたらしたカベオリンを発現する細胞膜カベオラ構造は著明に変化することが示された。また、NESHにおいても乳癌の一部にNESH334バリンからアラニンへの点突然変異例が見つかった。この部位はNESHのSH3領域内であり。蛋白質間の結合に影響していることが予想された。外来性のNESHの発現は癌細胞転移を著明に抑制するが、癌細胞増殖には影響しないという結果を得た。中程度の発現が認められる癌細胞のNESH発現をRNAiによって抑制すると顕著な細胞浸潤能の増加が認められた。NESH結合蛋白質の検索により新規分子Tarshを同定していたが、生理的な条件下でin vivoでの結合はほとんど認められなかった。本研究結果から、NESHは細胞運動の制御系で役割を担っていることが明らかになり、NESH・SHPS-1・Caveolin-1など細胞接着や細胞運動に関わる分子の特異的な阻害が癌の浸潤・転移を劇的に抑えることも強く示唆された。
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