染色分体早期解離症候群(PCS症候群)は我が国で発見された染色体不安定症候群で、ヒトにおける初めてのM期紡錘体形成チェックポイント欠損症である。患者由来の細胞は染色体分析で姉妹染色分体が高頻度に解離したpremature chromatid separation(PCS)と多彩な異数性モザイクを示す。臨床的に小頭症・発達遅滞・Dandy-Walker奇形・Wilms腫瘍の合併を特徴とする。これまでに私たちは、PCS患者細胞株を樹立して、主主のM期チェックポイントタンパクおよびキネトコアタンパクの細胞内局在を免疫染色法で解析したところ、BubR1とp55cdcのキネトコアシグナルがほぼ消失していることを見いだした。PCS細胞株にBubR1遺伝子が存在するヒト15番染色体を移入すると、BubR1とp55cdcのキネトコア局在と、チェックポイント機能が正常化することを見いだした。一方、ごく最近Hanksらは、PCS症候群に類似した病態を示すMVA症候群患者にBubR1遺伝子変異を同定・報告した。私たちは日本人患者7例についてBubR1遺伝子の変異解析を行った。その結果、7例すべてにBubR1のヘテロな変異が同定された(一塩基欠失によるフレームシフト変異、スプライス変異および一アミノ酸置換)。しかしながら7例とも片側のアレルには変異は検出されなかった。そこでBubR1遺伝子近傍のハプロタイプ解析を行ったところ、変異の検出されないアレルは共通のハプロタイプを示すことが判明した。さらに変異の検出されないアレルはBubR1蛋白の発現量が低下していることがわかった。以上の結果から、PCS症候群のM期紡錘体チェックポイント異常はBubR1の発現低下(正常レベルの50%以下)が原因であることが明らかとなった。
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