われわれは家族内に癌の集積を見た多発癌家系の検討から新規に見出した鉄貯蔵蛋白ferritin H鎖のiron responsive element(IRE)領域における点突然変異(A49T)が、遺伝的な発癌に関わるか否かについて検討した。本研究ではA49T変異H-ferritinを強制発現させたCOS細胞を用いて細胞内鉄代謝に及ぼす影響を検討するとともにA49T ferritin cDNAのノックイントランスジェニックマウスを作製した。A49T H-ferritinを過剰発現させたCOS細胞では、鉄調節蛋白-1(IRP-1)がA49T変異IREに優先的に結合したために野生型IREはvacant formが相対的に増加した。その結果、L-ferritinの合成が増加しferritin分子のH鎖の含有率が低下したH-poor ferritinが優位となった。またH-poor ferritinへの鉄結合率は低下し、細胞質内に2価鉄が増加し活性酸素種の産生が増加した。さらに、核内ではDNA変異源性塩基の一つである8-hydroxy-2'-deoxyguanosine(8-OHdG)が増加した。これらのことから、A49T ferritinの発現は細胞内に酸化ストレス・酸化的DNA傷害をを引き起こすと考えられた。A49T H-ferritinトランスジェニックマウスは、現在、生後3ヵ月まで観察中であるが、今のところ特に目立った変化は認められていない。今後、引き続き観察を続けるとともに、食餌性の鉄摂取量を負荷した群も加えて胃、肝、肺などの臓器変化を観察していく予定である。
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