ある種のがん細胞では細胞の極性が失われ、細胞の側底側(basolateral)に分布するカドヘリン等の細胞接着因子の減少や分布異常を来して細胞接着の低下をもたらし、細胞の浸潤や転移が亢進する。また、細胞の頂端側(apical)に分泌されるムチン蛋白の欠損マウスでは小腸、大腸でadenocarcinomaが多発する。多種の細胞接着因子蛋白、分泌蛋白は合成後、トランスゴルジネットワークで分配され、輸送後apical、basolateralのいずれかに分布すると考えられており、この一連のプロセスは極性輸送と呼ばれる。極性輸送は細胞接着因子蛋白や分泌蛋白の分布に重要な役割を果たし、がんの発生や転移にも関与している可能性がある。癌細胞と細胞の極性の関連については以前から指摘されているが、両者がどの位直接的な関係にあるか調べた報告は数少ない。本課題では、上皮細胞などに代表される細胞種の極性と癌の関連を解析するべく、細胞極性を形成する小胞輸送の課程に寄与する分子の機能を個体レベルで解析することを目的とした研究を行った。極性輸送における重要性が示唆されている低分子量GTP結合タンパク質RabやSNARE分子などの遺伝子のノックアウトマウスを作製し、そのうちの1つのRabのノックアウトマウスが完成した。作製したマウスはメンデルの法則による期待値と同等の匹数で出生した。これらのマウスの詳細な表現型をするとともに、生理学的な異常の特定や、組織、細胞の形態の解析などにより解明を試みたが、現時点ではノックアウトマウスにおける異常を明らかに出来ていない。
|