ヒトのp38 MAPキナーゼ経路は、様々な物理化学的ストレスによって活性化されるストレス応答情報伝達経路の一つであるが、アポトーシスの誘導や細胞周期制御にも関与しており、この経路の機能異常が癌などの疾患を引き起こすことが示唆されている。我々はp38経路の活性化の分子機構を明らかにするため、p38経路のMKK6 MAPKKにおけるMAPKKK(MTK1、ASK1)との特異的ドッキング・サイトをtwo-hybrid法により探索した。キナーゼ・ドメインの外側に位置するC末端のわずか20アミノ酸をMKK6から欠失させたところ、MTK1、ASK1のいずれのキナーゼ・ドメインとも結合がみられなくなった。そこでMTK1及びASK1との結合に重要なアミノ酸残基を調べるために、MKK6のC末端領域を4アミノ酸ずつ系統的にアラニンで置換して、two-hybrid法によってMTK1、ASK1に対する結合能を調べた。その結果、MKK6のC末端28アミノ酸(a.a.307-334)がドッキング・サイトとしてMTK1、ASK1との結合に関与することがわかった。この領域はαヘリックスの形成が予測され、ミスセンス変異による解析からV324、F327、V328、I331のアミノ酸が結合に重要であることがわかった。またドッキング・サイト変異型MKK6に結合できるようになったMTK1の抑圧変異として、Q1352R、K1371E、G1424Vを単離した。いずれもMTK1キナーゼ・ドメインのNローブ内の変異であり、NローブでのMKK6との結合が示唆された。これまで不明であった動物細胞MAPKKのMAPKKKドッキング・サイトを本研究において新たに発見できたことは、今後のp38経路の活性化、シグナル特異性決定の機構解明に大きく貢献すると考えられた。
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