c-Ablチロシンキナーゼは細胞質、核両方に存在するが、核内c-AblがDNA損傷により活性化し、アポトーシスを誘導することが知られている。このメカニズムを解明するためLC-MS/MSによって複合体を解析したところ、そのひとつとして14-3-3というアダプター分子を単離した。14-3-3は多彩な機能を有するが、その一つとして相互作用する標的タンパク質の細胞内局在を調節していることが多数報告されている。我々はすでにc-AblはDNA損傷に伴って核に移行することを見い出していることから、14-3-3がこの核移行に何らかの関与があるかを検討した。その結果、細胞を抗癌剤で処理すると、c-Ablと14-3-3の複合体形成が著しく低下していることが明らかとなった。これはc-Ablと14-3-3の相互作用が、DNA損傷によって何らかのメカニズムにより解消されることを意味する。また、c-Ablと14-3-3の複合体は細胞質にのみ見られることから、DNA損傷によるc-Ablの核移行は、14-3-3との解離によるものではないかと考えられた。そこでc-Ablと14-3-3の解離のメカニズムについて検討したところ、DNA損傷におけるc-Ablの14-3-3からの解離にはJNKによる14-3-3のリン酸化が関わっていることが判明した。さらにc-Ablの核移行には14-3-3が関与していることから、その制御がアポトーシス誘導にどのような影響を与えているかについて検討を行った。細胞にc-Ablを導入するとアポトーシスを誘導し、抗癌剤処理によりその誘導能は増強される。そこに14-3-3を加えると、有意にアポトーシスを抑制することがわかった。さらにJNKでリン酸化を受けない14-3-3変異体を加えると、アポトーシス抑制能はさらに高まることが明らかとなった。この結果からc-Ablの核移行を14-3-3によって阻害すると、DNA損傷によって惹起されるアポトーシス誘導が抑えられることが強く示唆された。
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