CMLでは病的芽球はほぼ正常に好中球まで成熟・分化するし、その細胞周期も特に早いわけではない。従ってCML慢性期の病態は、アポトーシス異常により説明される可能性がある。すなわち正常の造血前駆細胞ではサイトカイン欠乏時にBcl-2ファミリーに属するBH3細胞死誘導因子であるBimの発現が誘導され、細胞死に陥るが、Bcr-AblはBimの発現を抑制することにより、アポトーシスを抑制することがさまざまな実験システムで立証されてきた。サイトカインやBcr-AblによるBimの発現抑制はmRNAレベルによるものが重要であるので、転写調節によると当初考えられたが、意外にもそうではなく、mRNA半減期制御によるものであることが明らかとなった。その分子機序はヒートショック関連タンパク質であるHeat shock cognate protein 70(Hsc70)がBimやp27など特定のmRNAの3'非翻訳領域(UTR)に結合し、その安定化因子として機能することが中心にある。サイトカインやBcr-AblはRas経路の活性化を通じて、コシャペロンと呼ばれるシャペロンの機能を制御する一連のタンパク質のうち、Bag-4とCHIPを活性化する一方、HIPとHsp40を抑制する。この結果、Hsc70はmRNA結合能が低いATP結合型に移行し、mRNA結合能が抑制されるという、大変ユニークなメカニズムが解明された。Hsc70のmRNAに対する結合能は5'capやpoly(A)鎖を必要としなかったが、安定性の向上には特にcapが不可欠であった。このことからHsc70が3'UTRと結合する一方、capに結合するタンパク質群(eIF4G/4Eなど)にも結合し、3'UTRに書き込まれた遺伝情報をmRNA安定性や翻訳効率を制御するシステムへと伝える働きをしていると考えられた。
|