NF-κBは発がんからその進展に至る様々な段階で促進的に作用することから、がん治療の有望な標的として注目されている。とりわけ、ある種の腫瘍細胞ではNF-κBを恒常的に活性化することによって細胞死を免れ、また化学療法や放射線療法などに対する抵抗性賦与にも関与していることからNF-κB阻害剤もしくはその活性化過程の抑制剤の抗がん効果が期待される。そこで我々はその妥当性と蓋然性を確認するために、NF-κBが恒常的に活性化していることで知られるふたつの血液腫瘍、多発性骨髄腫(MM)と成人T細胞白血病(ATL)、に由来する細胞株や患者より採取した白血病細胞に対する新たに見いだされたIKK阻害剤ACHPによる細胞死誘導効果を調べた。その結果、いずれの悪性腫瘍細胞においてもACHPの比較的低濃度で細胞周期停止とアポトーシス誘導が引き起こされることが確認された。また、既知の抗がん化学療法との相乗作用も観察された。他方、我々はNF-κBのp65サブユニットとの相互作用から見出した53BP2/ASPP2によるアポトーシス誘導機構を解明した。53BP2はミトコンドリアに局在し、ミトコンドリア膜電位の低下が起こり、その結果カスパーゼ9に依存するアポトーシスカスケードが活性化され、アポトーシスが引き起こされるという一連の過程が明らかになった。また、IL-1β刺激でNF-κBの活性化を誘導した細胞では53BP2によるアポトーシスは阻害された。さらに、Bcl-2やBCL-xLを共発現させると53BP2によるアポトーシスは阻害された。以上のことより、ミトコンドリア経路を介した53BP2のアポトーシスは、アポトーシス抑制作用のあるNF-κBやBcl-2あるいはBcl-xLによって阻害されること、がん治療のためにはNF-κBやBcl-2等に対する阻害剤が有効であることが明らかになった。
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