研究概要 |
tRNA前駆体の3'トレーラー切断酵素(tRNaseZ)と,短いガイドRNA(sgRNA)を用いて,細胞内mRNAを塩基配列特異的に切断するRNA切断法を,研究代表者らは見出し報告してきた.本研究は,この新たな遺伝子発現制御法を個体レベルに応用し,抗腫瘍性RNAヘプタマー分子(sgRNAの一種)を開発して有効ながん治療法として実用化を目指するものである.まず,tRNase Zが,新しいタイプのsgRNAであるhook RNAの存在下で4-7 base RNA cutterとして機能しうるという発見がなされ,これと同等の構造をとりうる一部のmiRNAがhook RNAとして機能しうる可能性が考えられた.哺乳動物細胞において,実際にtRNase ZがmRNAを切断していることをより厳密に証明するために,テトラサイクリン存在下でtRNaseZを過剰発現する293細胞を樹立した.northern blotならびにwestern blotにより,tRNase Zの発現増加が確認された.この細胞において,標的RNAと塩基対合しうるsgRNAによって,ルシフェラーゼ活性の抑制効果が増大するか検討したところ,その効果は有意に増加した.この結果は細胞内においてtRNase ZによってmRNAの切断が引き起こされていることを証明するものである. また,Sarcoma180細胞においてアポトーシスを増加させたRNAヘプタマーBclHepを種々の濃度でDoxorubicinと併用し,MM6乳癌細胞をC3H/Heマウスに移植した固形癌担癌マウスの腫瘍局部に導入し,腫瘍径ならびに腫瘍重量を測定した.本研究から,tRNase Zならびにhook RNAを使用する遺伝子発現抑制法をがん治療に応用しうると考えられた.
|