研究代表者らが開発したAK-BACシステムは、約170キロベースのサイズを有するEBウイルスゲノムを大腸菌内の相同組換え法により改変し、組換えウイルス産生を行なう新しい方法である。このシステムを応用して、任意の腫瘍特異抗原を組み込んだEBウイルスベクターを産生可能である。そこで広範ながん細胞に高発現が認められる腫瘍特異抗原Muc 1ムチンを標的とする免疫療法の開発を念頭におき、Muc 1の遺伝子を組み込んだ組換えEBウイルスベクターを産生した。これを用いて健常人ドナーの末梢血Bリンパ球を試験管内でトランスフォームして、Muc 1発現リンパ芽球様細胞株(lymphoblastoid cell line、LCL)を樹立した。こうして樹立したMuc 1発現LCLを抗原提示細胞として用いることで、Muc 1特異的な自己由来の細胞傷害性T細胞(CTL)を誘導できるか検討した。すなわち放射線照射不活化したMuc 1発現LCLを同一人由来の末梢血単核球と8日間共培養し、得られたエフェクター細胞の細胞傷害活性をMuc 1発現LCLおよび非発現LCLをターゲット細胞として調べた。その結果、エフェクター細胞中にMuc 1発現細胞に対して特異的なCTL活性を認めた。以上より、EBウイルスベクターを用いて樹立した腫瘍特異抗原発現LCLが抗原提示細胞として機能すること、およびこれを用いて腫瘍特異抗原に特異的なCTLを誘導可能であることが示された。
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