研究概要 |
臨床の場において、癌の転移と各種抗癌剤に対する薬物耐性は有効な抑制方法が無く、癌の化学療法の最大のボトルネックとなっている。本研究は特異的CXCR4拮抗剤をケミカルプローブとして、癌臨床上大きな問題となっている、癌転移および骨髄ストローマ細胞依存性薬剤耐性の2種類の事象の分子メカニズムの精査とその抑制剤としての有効性を検証するところに学術的な特色を有する。 本年度はCXCR4一ケモカイン受容体情報伝達系が膵臓癌、メラノーマ、乳癌、小細胞肺癌の転移に密接に関連することを明らかにして、独自に見い出した特異的CXCR4拮抗剤(T140誘導体、FC131誘導体等)が各種の固形癌の転移抑制剤として応用可能なことを明らかにした。また慢性リンパ性B-Cell白血病の治療薬としても応用できる可能性を示唆する実験結果を得た。さらに、立体配座固定創薬テンプレートを活用したT140,FC131の低分子化、非ペプチド研究を推進することにより、基盤構造の異なる一連の低分子リード化合物を見いだし、各々の基盤構造を活かした医薬品としての構造最適化研究を実施した。またペプチド性生体内安定型誘導体4F-Benzoyl-TN14003のポリ乳酸を用いる徐放性製剤化にも成功し、メラノーマ肺転移マウスモデルで一週間に一回の単回皮下投与の顕著な転移抑制効果があることを明らかにして、CXCR4を分子標的とする癌転移抑制剤の有効性を立証した。さらに、小細胞肺癌に対するin vitro評価を通じてペプチド性CXCR4拮抗剤の有効性を確認した。さらに、乳癌、小細胞肺癌および各種血液癌で臨床上大きな問題となっている骨髄ストローマ細胞依存性薬剤耐性(Cell-Adhesion Mediated Drug Resistance)とCXCR4との関連を明らかにするとともにCXCR4拮抗剤による克服の可能性を示唆する実験結果を得た。
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