研究概要 |
トポイソメラーゼ阻害剤によるDNA損傷修復の機構解明を目的として,ヒトNalm-6細胞およびニワトリDT40,細胞由来の培養細胞変異株を用いて遺伝学的な解析を行った。その結果,トポイソメラーゼII阻害剤によるDNA損傷に対してニンドジョイニングが必須の役割を果たしていることが明らかとなった。これに対し相同組換えは,トポイソメラーゼII阻害剤による不可逆的な損傷を増やす方向に作用していた。以上の結果は酵母と全く逆であり,動物細胞を使った研究がいかに重要であるかを再認識させられた。また以上の結果から,エンドジョイニングを抑制すればトポイソメラーゼII阻害剤の作用を著しく増強できることが強く示唆された。一方,トポイソメラーゼI損傷修復には相同組換えが重要であり,エンドジョイニングは細胞の生存にとって不利に作用することがわかった。ただし,トポイソメラーゼI阻害剤によるDNA損傷は一本鎖切断が主であるため,今後はDNA一本鎖切断修復経路の関与について詳細な解析を進める必要がある。また,エンドジョイニングを欠損したDT40細胞がカンプトテシン耐性を示したことから,エンドジョイニング活性の低下ががん細胞の耐性獲得の原因となっている可能性が示唆された。次に,p53ステータスとトポイソメラーゼ阻害剤感受性との相関を明らかにするため,ヒトNalm-6細胞においてp53遺伝子のノックアウトを行った。さらに,Rad52や,Xrcc3,Ku70,DNA ligaseなどDNA鎖切断修復への関与が示唆される遺伝子について,順次ジーンターゲティングを行った。今後、ヒト細胞を用いた系統的な逆遺伝学的解析によって,より効果的な化学療法が確立されることが期待される。
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