子宮頚部異形成患者におけるDNAメチル化の状態に着目した発がんリスク評価の実用化を目指し、子宮頚部扁平上皮がんの多段階発生過程におけるDNAメチル化の変化の意義を見極めることを本研究の目的とした。子宮頚部病変外科切除材料において、DNMT1の蛋白発現に関する免疫組織化学的検討ならびにCpGアイランドにおけるDNAメチル化の状態の評価を行った。 子宮頚部正常重層扁平上皮に比し、軽度異形成・中等度異形成・高度異形成・上皮内がんにおいてDNMT1の蛋白発現は段階的に亢進した。DNMT1の蛋白発現は軽度異形成の段階において既に有意に亢進し、中等度ないし高度異形成では既に上皮内がんとほぼ同等に高発現することがわかった。前がん段階からDNAメチル化の亢進が好発するCpGアイランドを特定し得た。DNMT1の蛋白発現亢進を伴うCpGアイランドのDNAメチル化の蓄積は、子宮頚部扁平上皮がんの多段階発生過程に早期から寄与する可能性があると考えられた。DNMT1の蛋白発現は扁平上皮がんが浸潤を開始するとともにむしろ維持活性レベルまで低下する傾向があるが、一旦CpGアイランドに蓄積したDNAメチル化の亢進状態は浸潤がんにおいても保持されていた。他方で、特に浸潤先進部の腫瘍胞巣において、DNMT1蛋白発現が再度亢進することがあり、局所のがん間質相互作用等の影響を受けてDNMT1蛋白発現が制御される可能性があると考えられた。 今後、異形成から実際にがん化に至った症例と至らなかった症例の経過観察中の生検標本においてCpGアイランドのDNAメチル化の差異を更に詳細に検討することにより、生検標本におけるDNMT1の免疫組織化学的検討とDNAメチル化の状態の評価を組み合わせて発がんリスクを予測する診断基準を確立し得ると期待される。
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