細胞周期は一連のプロセスを進行することによって起こるが、細胞周期は厳密に制御されていて、増殖に不適切な状況下ではその進行を停止する。我々は、細胞壁合成欠損株の表現型を解析する過程で、細胞壁合成の停止が核分裂の停止を引き起こすという興味深い現象を発見し、新しいチェックポイント制御機構が存在することを発見した。細胞壁チェックポイントと名付けた新規チェックポイントは、グルカン合成欠損株などで観察され、細胞はSPB複製後、紡錘体形成以前で細胞周期を停止することが明らかになり、同時にこの細胞周期のClb2pの異常により起きることが明らかになった。このチェックポイントに関与する因子について探索したところ、ダイナクチン複合体のコアタンパク質であるArp1pが関与していることが明らかになった。そこで、Arp1pの分子内の役割分担をしらべるために、30以上の変異を導入して解析した。ダイナクチンは、核移行とチェックポイントの二つの機能をもっているが、二つの機能のうち一方だけが欠損している表現型を示す変異株が得られたことから、Arp1pは細胞壁合成チェックポイントと核移行に必要な機能を分子上の互いに異なる領域にもつ分子であることが明らかになった。またArp1pの立体構造を予測して変異の部位を調べたところ、チェックポイント機能にのみ欠損を示すアリルでは変異部位が核の移行に関与する領域とは異なる部位でドメインを形成していることが分かった。これらのことから細胞壁チェックポイントと核の移行機能は互いに独立して制御されており、Arp1pはその2つの機能に対して分子内の異なる機能領域で関与していることが示唆された。
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