さまざまな細胞系においてPI3キナーゼ・Akt経路が、細胞の生存促進や細胞増殖促進に働くことが示されているが、個々の系におけるAktの特定の機能については必ずしも明らかにされていない。本研究ではDNA損傷チェッポイント制御の際のAktの役割を明らかにし、その作用機序の解明を目指した。申請者のグループは以前に、AktがMdm2をリン酸化してp53のユビキチン化とタンパク質分解を促進することを明らかにしていたが、in vitroにおいてMdm2がE2F1に対してもユビキチン化活性を持ち、AktによるMdm2のリン酸化がE2F1タンパク質の分解を促進する知見を得たことから、Mdm2によるE2F1の制御の可能性について検討を行った。まずRNAi法によるMdm2のノックダウンによってE2F1タンパク質の安定性が増加したことから、内在性のMdm2がE2F1タンパク質の分解に必要である可能性が示唆された。また活性型のAktを発現させることでE2F1タンパク質量が低下し、安定性も低下した。さらにドミナントネガティブ型のMdm2を発現させることによって誘導される細胞死はE2F1に対するRNAiによって抑制された。このことからE2F1がアポトーシス誘導に重要であり、Mdm2がE2F1タンパク質の分解制御を介して細胞死の調節を行う可能性が示唆された。以上の結果から、Akt-Mdm2経路によるp53やE2F1への制御の機構を理解することが、DNAチェックポイントにおける細胞増殖停止・アポトーシス誘導の制御にとどまらず、ガン化誘導の分子メカニズムの解明にもつながると考えられた。
|