増殖抑制因子Tobは細胞が静止期を維持することに関与する分子であり、また癌抑制遺伝子の候補であることが示唆されている。さらにTobの機能が増殖因子刺激に応じて活性化されるMAPKによるリン酸化で制御されていることを明らかにしてきた。本研究においては、細胞レベルや個体レベルにおけるTobの役割をtob遺伝子自身の発現調節機構という観点から解析を進めている。 まず、マウスにおけるtob遺伝子の5'上流領域をゲノムライブラリーのスクリーニング、及びPCR法によってクローニングした。その領域の塩基配列情報をもとに、既存のデータベースを利用して、各領域に結合する転写因子の候補の検索、マッピングを行った。その一方で、細胞周期の状態や細胞の分化誘導に伴ってtob遺伝子が変動するかどうかも同時に調べた。その結果tob遺伝子は筋肉細胞、脂肪細胞などの間葉系細胞の分化に伴って上昇するということが分かった。さらにDNAに紫外線照射をしたときにもTobの発現は上昇した。脂肪細胞の分化にはc/EBPalphaという転写因子の強い関与が示唆されているが、先のデータベース解析より、tob遺伝子の5'上流領域にもc/EBPalphaの結合候補配列が存在することが分かったので、実際にレポーター遺伝子をクローニングしたプロモーター領域の3'側に組み込んだベクターを構築して、レポーターアッセイを行った。その結果、c/EBPalphaはレポーター遺伝子の発現を活性化できることがわかった。また、その結合候補配列を欠いたレポーターコンストラクトでは活性化は見られないという結果も得た。今後、EMSAやCHIPアッセイにより、c/EBPalphaのtob遺伝子プロモーター領域への結合を確認していく。DNA損傷時のTob発現誘導の分子機構も解析する予定である。
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