研究概要 |
本研究は,TGF-βによる増殖抑制とアポトーシス誘導という異なる細胞応答を制御している機序を解明することを目的としている。上記のTGF-βによって発現が誘導される新規蛋白をコードしている遺伝子のひとつは、培養細胞に過剰発現させることにより、アポトーシスを誘導するためTGF-β Apoptosis Inducing Protein 3(Taip3)と命名した。TGF-bにより増殖停止をおこす細胞では、Taip3タンパク質の発現は一過性であるが、アポトーシスをおこす細胞内では,核の周辺に集積した後,アポトーシスによる細胞死をおこすことがわかった。また、Taip3遺伝子配列をもとに相同性を有する遺伝子の検索を行ったところ,ヒトとマウスに3つづつあることがわかり、全長をクローニングして機能を調べたところ,いずれもアポトーシス誘導能があることがわかった。更に、Drosophila melanogasterやCaenorhabditis elegansにも相同性を有するタンパク質をコードしている遺伝子が1つづつ存在することがわかり、種を越えて保存されている遺伝子ファミリーを作っていることが示唆された。 昨年までに、TGF-βによってアポトーシスが誘導されるヒト肝癌由来細胞Hep3Bにおいて、Taip3の発現をsiRNAを用いて抑制したところ、TGF-βによるアポトーシス誘導が抑制されたことから、Taip3の発現がHep3B細胞におけるアポトーシス誘導に関与していることを報告した。本年度の解析により、Taip3によるアポトーシス誘導にPARPの切断が関与していることがわかった。このことは、Taip3の活性部位と思われるところに点変異を導入し、アポトーシスを誘導しないTaip3では、PARPの切断が観察できないという結果からも支持された。現在、更にTaip3によるアポトーシス誘導機構について詳細な解析を行っている。
|