本研究の目的は、大腸菌での研究経験を活かしながら、酵母のDNA複製開始制御機構を、試験管内再構成系の確立、及び複製開始蛋白質に結合しているアデニンヌクレオチドによる制御という二つの観点から、生化学的に研究することである。我々は、ATPと結合できない変異Orc5pを発現する酵母変異株、orc5-A株を構築し、その解析を行った。具体的には、(1)ORC、及びCdc6pに関して、ATP/ADP結合、及びATPase活性を調節する因子の検索を行う、及び(2)ORCのATP/ADP結合、及びATPase活性に開する遺伝学的解析を行う、(3)真核生物の染色体DNA複製全体の再構成を行う、以上3点の研究を行う。(1)ORC、及びCdc6pに関して、ATP/ADP結合、及びATPase活性を調節する因子の検索に関して今年度我々は、酵母核粗抽出液中に、ORC、及びCdc6pのATP/ADP結合、及びATPase活性を促進する活性を見いだした。さらにこれらの活性を、SDS-PAGE上単一なバンドを示すまでに精製した。(2)ORCのATP/ADP結合、及びATPase活性に開する遺伝学的解析に関して今年度我々は、昨年度構築したATPと結合できない変異Orc5pを発現する酵母変異株、orc5-A株を用いて、この株ではOrc5pサブユニットがユビキチン化されるために、プロテアソームにより分解されることを見いだした。(3)真核生物の染色体DNA複製全体の再構成に関して今年度我々は、再構成に必要な全ての蛋白質の精製を完了した。 以上の結果から、Orc5pのATP結合活性は、Orc5pとOrc4pの相互作用に必要であり、この相互作用はORCが細胞内で安定に存在するため重要であることが考えられる。
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