細胞周期の進行には、特定の蛋白質の合成と分解が特定の時期に起きることが必要であることが知られている。本研究はその中でも蛋白質合成の調節に関わる因子に着目して、それらが細胞周期、細胞増殖に果たす機能を探ることを目的とした。細胞内でmRNAは特定の蛋白質との複合体であるmRNPとして存在するが、翻訳活性調節にはmRNPを構成する蛋白質が重要な役割を果たすと考えられる。そこで、カエル卵母細胞から卵成熟の段階、初期胚および培養細胞を材料として、mRNPを構成する蛋白質が細胞周期調節に果たす役割を検討した。 1.まず、mRNPの主要構成因子であるY-ボックス蛋白質YB-1の遺伝子欠損株は細胞増殖の遅延と蛋白質合成の低下が認められるので、YB-1のターゲットとなる特定のmRNAの検索を行った。 2.Y-ボックス蛋白質とRNAに依存して複合体を作るRNA結合蛋白質を見いだし、抗体を作製してこの蛋白質の卵成熟や初期発生に果たす役割を検討した。しかし現在までに、抗体の微小注入やこの蛋白質の高発現などによっても、卵成熟過程への効果は見られていない。この蛋白質のヒトホモログの培養細胞での発現をsiRNAによって抑制すると、細胞増殖の遅延がみとめられた。この蛋白質はmRNAに結合させるとそのmRNAの翻訳を抑制するので、特定のmRNAの翻訳調節に関与して細胞増殖に関与する可能性が考えられる。つぎに、免疫染色によってこの蛋白質の局在を観察した。この蛋白質は細胞質に存在し、細胞質にいくつかの点状に強い局在を示した。この点の数は細胞周期に伴って変化し、M期には点が減少した。これらの点はmRNA分解に関わる酵素の局在と一致し、この蛋白質のmRNA分解への関与が予想された。
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