研究概要 |
神経前駆細胞は脳・脊髄や網膜の原基すなわち神経上皮のなかで脳室面と脳膜面を突起で結ぶ双極型をしており,自身の細胞周期進行の間に核および細胞体を移動させることが知られている.多くの前駆細胞が脳室面でM期を,そして脳室面から数十マイクロメートル深部においてS期を迎える(細胞周期依存的昇降がエレベーター運動と称される).ところが大脳皮質の原基では,ニューロン産生が活発な発生ステージにおいて,脳室面での分裂に加えて深部での前駆細胞分裂が全体の起こる.従来はこの非脳室面分裂がいかなる意味を持つのか謎であった.宮田はスライス培養法を用いて,まず非脳室面分裂細胞がニューロン2個をつくることを見いだした.そしてこのニューロンづくり専門化が細胞周期のS期までに進むこととそれに対応してS期の終わりからG2期にかけて脳室側の突起を虚脱させるという不可逆的な形態変化が起こることを観察した.つまり,非脳室面分裂を行う前駆細胞は脳膜側方向への移動だけを一方通行的に行う,さらに,このニューロンづくり専門化と脳室面離脱にbHLH型転写因子のNeurogenin2が関与していることをウイルスを用いた機能実験により突きとめた.以上の結果から,大脳皮質原基の前駆細胞が(1)自身の細胞周期の進行,(2)細胞運動および分裂位置の決定,そして(3)いかなる娘細胞をつくるのか(細胞運命決定)という3つの事象を巧妙にリンクさせてステージごとに組織が求める細胞産生のスケジュールを達成していることが明らかになった.
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