神経堤細胞は神経板と表皮外胚葉の境界部に形成され、ニューロンや色素細胞、頭部骨格など様々な細胞に分化する。とくに頭部では間葉系の組織が神経堤から形成される。本研究では、これまでの蓄積をもとに、頭部神経堤の性質である軟骨等の間葉系細胞種の分化がどのように制御されているのかを明らかにすることを目標とした。まず、頭部神経堤を単離、培養して、軟骨分化を観察できる実験系を構築した。その結果、培養液中にbFGFを添加することで、軟骨マーカーである2型コラーゲンタンパク質の発現を確認できた。そこで、頭部神経板をBMP4存在下で培養し、誘導された神経堤に対してbFGFを作用させたところ、やはり2型コラーゲンの発現が確認された。bFGF無しではコラーゲンの発現は観察できなかった。このことから、頭部神経板には頭部型神経堤を形成する能力があることがわかった。また、2型コラーゲン遺伝子をウズラ胚よりクローニングし、in situハイブリダイゼーションによって発現を調べたところ、軟骨に分化する前の、移動中の頭部神経堤細胞ですでに発現していることがわかった。これらのことから、頭部型神経堤の発生運命は神経堤の発生の極めて早い段階で決定されていることが示唆された。また、これらの実験をおこなっている時に、bFGFを神経板の培養開始時から添加しておくと、BMP4による分化誘導が阻害されることがわかった。このbFGFの効果はMEK1の阻害剤や、Akt1の阻害剤の添加によって打ち消されることから、bFGFの下流で働くRas/MEK/MAPキナーゼ経路とPKC/Akt経路の両方が必要であることが示唆された。このことは、活性化型Rasや活性化型MEK1の強制発現だけではBMP4の効果を打ち消せなかったことと矛盾しない結果であった。これらのことから、BMPシグナルとFGFシグナルの拮抗作用によって、神経堤形成が制御されていることが考えられた。
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